ちくま三国志の後だからなおさらかもしれないが
2006年2月21日『春秋左氏伝』(以下『左伝』)の岩波版を読み進めている。
現在、魯僖公4年、すなわち紀元前656年…といってもピンとくる人は
皆無だと思う(というか私にも判らん)のでトピックスで言うと、
「申生が驪姫の讒言で疑われて自殺したところ」
である。すなわちまだまだ春秋時代の序盤戦。斉桓公も健在だ。
…ってこれでも大半の人にはピンと来ないわな。
岩波版は、出来がいい。
本来『左伝』というのは、(編年体の悲しさ、といえばそれまでだが)
事象が時系列である代わりに空間的にはバラバラに配置されているため、
とにかく前後関係がわかりにくい。元々似た名前の人物(特に諸侯)が
多いことも手伝って、つい数年前の伏線に気付かない事がありがちだ。
私が前に読んだ某出版社版は、このおかげでなかなか先に進めず、
読み終わるまでにかなりの時間を消費した記憶がある。
が、岩波版は、これらが非常に良く整理されている。
たとえば本文では、ある事件Aの記述に”XXX年の事件Bへ”あるいは
”YYY年の事件Zから”といった前後関係が補足されている。
また巻末では国別年表/諸侯の在位年間と特記事項などが並行に記述
されていたりする。
つまり、本来は点がまばらに配置されているだけの『左伝』の表記を、
線でことこまかに結びつけているのである。
読んでいて実に有り難い。
難点を挙げるとしたら、本文中に注釈が一切書かれていないという事
だろうか。このため、ある程度この時代の背景やイデオロギーの前知識が
ないと、何のことやらさっぱり、という事態になりかねない。
※応仁の乱≒西周滅亡、足利氏=周王家、と関連づければ多少は理解しやすいか。
ただそうなると信長=始皇帝、っていう安直なオチになりそうでイヤなんだけど
ただこれは、この岩波版が「翻訳と整理という「作業」の純粋なアウト
プットである事を意味する。つまり訳者の恣意的な部分は殆ど混じって
おらず、このために雑念無く読めるので、私としては大歓迎だ。
この岩波版はすでに刊行されておらず入手困難だがなんとか古本を捜して
………と思っていたのだが、実は2年ほど前に復刊していたらしい。
興味のない人には全くお勧めできないが、興味のある人にはぜひ入手して
一読願いたく思う次第である。
………そんな奴ぁいねぇって?判ってるよ、言ってみただけさ。
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